東京地方裁判所 昭和28年(行)15号 判決
原告 木村昭夫
被告 東京都知事
一、主 文
被告が訴外小竹新六、同斎藤彌太郎、同小林三雄に対してなした換地予定地指定通知の取消を求める原告の請求を却下する。
本件訴中その余の部分を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が訴外小竹新六に対してなした東京都板橋区板橋町六丁目七百八十番地の二宅地二十九坪四合五勺の換地予定地として同所七百八十番地宅地二十坪一合三勺を指定する旨の通知、訴外斎藤彌太郎に対してなした同所七百八十一番地宅地四十七坪六合の換地予定地として同所七百八十一番宅地三十二坪四合六勺を、同所七百八十四番地宅地四十七坪の換地予定地として同町一丁目二千四百八十三番、二千四百八十四番宅地四十坪五勺を、同町六丁目七百八十五番地の二宅地六十五坪三勺の内、四十一坪三勺の換地予定地として同町一丁目二千五百二十四番地宅地三十五坪八合六勺を並に同町六丁目七百八十五番地の三宅地三十七坪の換地予定地として同町一丁目二千五百四十一番宅地三十三坪八合九勺を、それぞれ指定する旨の通知、及び訴外小林三雄に対してなした同町六丁目七百八十五番地の二宅地六十五坪三勺の内、二十四坪の換地予定地として同町一丁目二千五百二十四番宅地二十坪三勺を指定する旨の通知を取消す。被告は小竹新六、斎藤彌太郎、小林三雄をして各従前(換地予定地指定通知前)の宅地上に所有する建物をその換地予定地上に移転せしめ又は自らこれを移築してはならない。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求めると申立て、請求の原因として、
「東京都板橋区板橋町六丁目七百八十番地の二宅地二十九坪四合五勺、七百八十一番地宅地四十七坪六合、七百八十四番地宅地四十七坪、七百八十五番地の二宅地六十五坪三勺及び同番地の三宅地三十七坪はいずれも原告の所有であるが、右各土地は東京都市計画復興土地区画整理事業第十四地区に属し、区画整理が施行され、昭和二十七年八月二十日附、同年九月二十六日附、並に同年十月十日附の各通知書を以て、申立掲記の如く、被告は(一)同所七百八十番地の二の右宅地につき同所同番地の二宅地二十坪一合三勺に(二)、同所七百八十一番地の右宅地につき同所同番地宅地三十二坪四合六勺に、同所七百八十四番地の右宅地につき同都同区同町一丁目二千四百八十三番地、二千四百八十四番地宅地四十坪五勺に、同都同区同町六丁目七百八十五番地の二右宅地中四十一坪三勺につき同都同区同町一丁目二千五百二十四番地宅地三十五坪八合六勺に、同都同区同町六丁目七百八十五番地の三右宅地につき同都同区同町一丁目二千五百四十一番地宅地三十三坪八合九勺に、(三)同都同区同町六丁目七百八十五番地の二右宅地中二十四坪につき同都同区同町一丁目二千五百二十四番地宅地二十坪三勺に、それぞれ換地予定地を指定し、(一)については訴外小竹新六に対し、(二)については斎藤彌太郎に対し、(三)については訴外小林三雄に対し、換地予定地指定通知をなした。然し乍ら小竹、斎藤、小林はいずれも右土地につき何等の権利を有するものではなく、又特別都市計画法施行令第四十五条但書によれば区画整理施行地区内の土地につき、所有権以外の権利を有するもので登記のないものについては、同令第十条の区画整理施行地区の告示のあつた時から一月内に施行者にその権利を届出ないときは換地の交付をしない旨の規定があるところ、本件同令第十条の施行地区の告示は昭和二十二年二月二十七日であり、同令に基く権利届出期限である昭和二十二年三月二十七日迄に地主たる原告と連署又はその権利を証する書面を添附の上権利の届出をしたものでもない。従つて被告は小竹、斎藤、小林に対し右換地予定地指定通知をなすべきものではないのに敢てこれをなしたものであるから右換地予定地指定通知はいずれも違法であると言わなくてはならない。
ところで小竹は、(一)の原告の所有地上に、斎藤は(二)の原告の所有地上に、小林は(三)の原告所有地上に、それぞれ家屋を所有して居るのであるが、同人等に対する右換地予定地指定通知によつて被告は小竹、斎藤、小林をして、それぞれその所有家屋を右換地予定地上に移築せしめるか或いは自らこれを移築することになるのであるが、前述の如く小竹、斎藤、小林は右通知を受くべきものではなく、その所有家屋を右換地予定地上に移築する権原を有しないのであるから、被告は小竹、斎藤、小林をしてその所有家屋を右換地予定地上に移築せしめたり、又は自らこれを移築してはならないものである。
然も右移築によつて原告は右換地予定地の所有権を侵害されることになるわけであるが、原告が昭和二十七年十一月小竹、斎藤、小林に対する右通知があつたことを知つた頃には、すでに右移築がなされんとする状況にあつたので原告は右小竹、斎藤、小林に対する通知について訴願の裁決を経ることなくその通知の取消を被告に対し小竹、斎藤、小林をしてその所有家屋を移築せしめ、又は自らこれを移築すべからざることを命ぜられんことを求める被告の答弁(本案についての)事実中、小竹、斎藤が昭和二十三年六月小林が昭和二十四年六月に換地の目的である土地について各借地権を有する旨の届出をしたことは認める。」と述べた(証拠省略)。
被告指定代理人は、訴却下の判決を求め、
「原告がその主張の通り土地を所有して居り、右土地が原告主張の区画整理事業第十四地区に属し、区画整理が施行され被告がその土地について原告主張の通りに換地予定地を指定し、原告主張の通りに小竹、斎藤、小林に対しそれぞれその通知をなしたことは認める。
右通知は特別都市計画法第十三条に基いてなされたものであるから、右通知を違法なりとしてその取消を訴求するには、都市計画法第二十五条に基く訴願の裁決を経由しなければならぬものであるのに、原告は右通知につき訴願をもなさずして本訴を提起したのであるから、本件訴中右通知の取消を求める部分は不適法であると言うべきである。
本件訴中その余の部分は行政庁に対し、行政行為をなすべからざることを求めるものであるから、この部分も不適法である。」と述べ、
本案につき請求棄却の判決を求め、
「本件区画整理について、特別都市計画法施行令第十条の施行地区の告示が昭和二十二年二月二十七日にあつたこと小竹新六、斎藤彌太郎、小林三雄が権利申告期限たる昭和二十二年三月二十七日迄に右土地についてその権利の申告をしなかつたことは認めるが、同人等が右土地について何等の権利を有せずとの事実は不知である。
小竹、斎藤、小林は昭和二十三年三月より六月の間に特別都市計画法施行令第四十五条但書に基き、それぞれ右土地の借地権を有する旨届出をなしたので被告は昭和二十七年八月から十月迄の間に右換地予定地指定通知をなしたのである。同施行令において所有権者以外の権利者の権利申告について期限が定められて居るのは、区画整理施行の為、便宜上一応の期限を画し、その期限迄に権利申告をしない権利者に対しては換地予定地指定通知をしなくても差支えないことを示すに止まり、区画整理施行者が整理施行上支障なきものと認めた場合に、右申告期限後に権利申告をした者に対し右指定通知をなすことまで禁ずる趣旨ではないから、届出期限後にではあるが適法なる申告をした小竹、斎藤、小林に対し右指定通知をなしたことは違法ではない。」と述べた(証拠省略)。
三、理 由
本件訴中被告に対し、訴外小竹新六、斎藤彌太郎、小林三雄をして、その所有家屋を移築せしめ又は自らこれを移築すべからずとの判決を求める部分について、
原告のこの点についての主張は、東京都板橋区板橋町六丁目七百八十番地の二、七百八十一番地、七百八十四番地、七百八十五番地の二、同番地の三はいずれも原告の所有であるが、被告は右土地について換地予定地を指定し、これを小竹、斎藤、小林に通知したので、被告は小竹、斎藤、小林をして同人等が右土地上に所有して居る家屋をその換地予定地上に移築せしめるか或いは自らこれを移築することになると言うのであるから、被告が小竹、斎藤、小林をしてその所有家屋を移築せしめ、或いは自らこれを移築すると言う行為は単なる私的な行為ではなく、特別都市計画法第十五条に基いて土地区画整理の為になす行政上の行為であることは明らかである。(原告が行政庁たる東京都知事を被告として居るのは、右の趣旨なのであろう。)ところで我国の憲法において採られて居る三権分立の建前からすれば、裁判所は行政庁のなした行政行為についてそれが法規に適合したりや否やの判断をなす権限は有するが、行政庁に対して行政上の行為について給付を命ずる権限はこれを有しないのである。行政庁に対してある行政上の行為をなすべからざることを命ずることは、消極的でこそあれ行政上の行為についての給付命令なのであるから、裁判所の権限に属せざることは明らかである。本件訴のこの部分の主張が前述の通りのものである以上、原告の訴求するところが裁判所の権限に属せざることも上叙説示の処からして明らかであつて、本件訴中この点は不適法であるからこれを却下する。
本訴請求中その余の部分について、
東京都板橋区板橋町六丁目七百八十番地の二、七百八十一番地、七百八十四番地、七百八十五番地の二、同番地の三の宅地はいづれも原告の所有であるが、被告は(一)同所七百八十番地の二の宅地につき同所同番地の二宅地二十一坪一合三勺に、(二)同所七百八十一番地の右宅地につき同所同番地三十二坪四合六勺に、同所七百八十四番地の宅地につき同都同区同町一丁目二千四百八十三番地、二千四百八十四番地宅地四十坪五勺に、同都同区同町六丁目七百八十五番地の二の宅地中四十一坪三勺につき同都同区同町一丁目二千五百二十四番地宅地三十五坪八合六勺に、同都同区同町六丁目七百八十五番地の三の宅地につき同都同区同町一丁目二千五百四十一番地宅地三十三坪八合九勺に、(三)同都同区同町六丁目七百八十五番地の二の宅地中二十四坪につき同都同区同町一丁目二千五百二十四番地宅地二十坪三勺に、それぞれ換地予定地を指定し、(一)については小竹新六郎に対し、(二)については斎藤彌太郎に対し、(三)については小林三雄に対し、それぞれ換地予定地指定通知をなしたことは当事者間に争がない。被告は右通知は特別都市計画法第十三条に基きなされた処分であるから、これに不服あるものは都市計画法第二十五条第一項に基く訴願の裁決を経由した上でその取消を訴求すべきものであると主張するので、この点について判断する。都市計画法第二十五条第二項によれば、都市計画法並びに特別都市計画法に基く処分について、それが行政裁判所に出訴し得る場合に該当するときはその処分について訴願ができないことになつて居り、第二十六条によればその行政裁判所に出訴し得る場合とは違法なる処分であつて権利の毀損されたとされる場合である。行政裁判所は新憲法の施行に伴い廃止せられたのではあるが都市計劃法第二十五条第二項、第二十六条の規定が未だに存する限り、その規定は訴願事項についての制限規定としては有効に存続するものと解するのが相当である。従つて問題とされる処分が個人の権利を侵害することあるものである以上、当該処分を違法とし、それによつて権利を侵害せられたとして争う争訟については、主務大臣に対して訴願することはできないものと言わなくてはならない。ところで換地予定地指定通知とは、換地処分が効力を生ずる迄、その通知を受けた者に対し、その者が従前の土地について有して居た使用収益権を停止せしめ、他方換地予定地について従前の土地について有して居た使用収益と同じ使用収益をなす権原を附与する処分であるから、違法な換地予定地指定通知によつて個人的権利の侵害の生ずる場合があることは明らかであり、又原告が本件において主張する処は被告のなした小竹、斎藤、小林に対する右指定通知は違法であり、且それによつて原告の換地予定地についての権利が侵害されたと言ふにあるから、上叙説示の処からして、原告は本件争訟について訴願を提起し得ざるものであることは明らかであり、従つて原告は本件訴を提起するについて訴願を経由しなければならぬものではないから、被告のこの点の主張は採用できない。
然も原告が小竹、斎藤、小林に対する右指定通知のあつたことを知つたのが、昭和二十七年十一月頃であるとの事実は被告において明らかに争わざるところであるから自白したものと看做すべく、又昭和二十七年十一月より未だ六ケ月を経過せざる昭和二十八年三月十八日に本件訴が提起されたものであることは当裁判所に明白であるから、本件訴は適法であると認められる。
けれども換地予定地指定通知とは前述の如くその通知を受けた者に対し、換地処分が効力を生ずる迄その従前の土地について有して居た使用収益権を停止せしめ、他方換地予定地について従前の土地について有して居た使用収益と同じ使用収益をなす権原を取得せしめる処分であり、且これに止まるものである。その通知を受けた者が従前の土地について権原を有すると否とを問わず、原始的に換地予定地に何等かの権原を取得せしむる処分ではなく、従つてその通知を受けたものが従前の土地について何等の権原も有しない時は、当然換地予定地についても何等の権原も取得するものではないのである。ところで原告の主張する処によれば、小竹、斎藤、小林は従前の土地につき何等の使用収益権原をも有しないと言うにあるから、その主張からすれば小竹、斎藤、小林は換地予定地について何等の使用収益をなす権原を取得する筈はなく、従つて被告が小竹、斎藤、小林に対して右指定通知をなしたことによつて、原告が換地予定地について取得した使用収益をなす権原に何の制約も加わるものではなく、右通知の有無は原告の有する本来の権利義務等の消長を招来するものではない。さればこの点の原告の請求は主張自体からして権利保護の利益のないことは明らかであり却下を免れない。(附言すれず小竹、斎藤、小林が換地予定地について使用収益権原ありとして換地予定地を占有した場合、その紛争は原告と小竹、斎藤、小林との間において解決さるべきものであるが、換地予定地の指定通知の有無は原告がその正当な権利を主張し行使するに何等の支障とはならない。)
以上判示の通りであるから、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 毛利野富治郎 桑原正憲 山田尚)